“人のものを盗んできて自分のものにちゃんと作り直す、ずるひくらいでせう。本当に此のずるさは厭になる” 円紫さんシリーズ6冊目。 円紫さんとは気づかずに読みはじめた。 北村氏得意の中性的な語り口で、「私」が三島を語る。エッセイかと思ったら、「私」は小説家ではなしに出版社勤めであれれ? 謎解きが待ちきれずにページをとばすと、あちらこちらに「円紫さん」の文字が。大昔に短編集の二巻目と三巻目を 読んだことがあった。学生だった主人公はいつのまにか子持ちの共働きになっていた。円紫さんとはくっつかなかったのね。 主人公の私生活が多少アクセントとなりながら、全体的にはとっても学術的な話が広がる。「花火」「女生徒」の章で太宰治を掘り下げ、萩原朔太郎と進む。そして「太宰治の辞書」でついに結論が開ける。ロココという言葉をどういう意味合いで使ったか、どこの辞書からきた言葉か。 メインに流れる「女生徒」は、太宰の中でも破格の若さと勢い、と思っていたらファンの女学生、有島明淑が送ってきた日記を土台にしたものだった。もらった日記から啓発され、太宰ファンの文章をより太宰調に染めていった。 ちなみに彼の有名なフレーズ、「生まれてすみません」も詩人、寺内寿太郎氏からの引用だ。 原文は本当にすみません、と謝っていたのだろうけれど、太宰治が使うと”謝っていませんね。かわいそうでしょう、────だから、許してください。” そういった話が主人公は出版社のコネクション、教授とのつてを使って次々と源を探って進む。 文頭は「有明淑の日記」有明淑著より。 ちなみにこれが太宰のもとに送られてきて、これを基に「女生徒」を発表。 短絡的に考えると盗用をあげつらう話となりそうだが、この本は太宰の擁護論になっている。 “第三者の文章という食材を口に入れては消化する。その食欲はすさまじいものです。もっとも取材し材料を集めて自分の中でまとめて発表するのは作家本来の働きです。その時≪作者である≫と最後に署名出版するかどうかは当人の力次第ですね。魔力といってもいい。月並みな人知は超えています” 話は次から次へとわきおこる疑問を解くことに集中し、ついには霧が晴れるような前途が見えた。 この本をテーマとして、いろんな人が書いた読書感想文を読んでみたくなった。 この本についてもっときちんと知りたい方は、立ち読み 波 新潮社で北村薫氏のインタビューが公開されています。 にほんブログ村
by mkbookies
| 2016-06-22 05:20
| 本
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